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ブログ小説「チカの地下冒険とダイヤモンド王国のひみつ」1話

芹澤です。こんにちは。

新たな試みとして、今日からこちらのブログで児童文学の掲載をはじめます。

(同じ作品をカクヨムにも掲載していますが、先行掲載するつもりです)

なお、状況をみて連載の可否を判断します。お付き合いいただけると幸いです。

 

【あらすじ】

 「おかあさんなんか、だいっきらい!」

中学一年の藤村チカは数学のテストで赤点をとってしまい、おかあさんとケンカして家出した。
所持品はメモ帳、鉛筆、ハンカチ、そして入学祝いにもらったダイヤモンド(レプリカ)のネックレス。
ひとりで生きていこうと決めたチカだったが、誤って、工事中の穴に落ちてしまう。

――ころころころころ。
転がり落ちた先はまっくらな地下世界の坑道。
そこで出会ったのは尻尾のある少年・コード8032と口やかましい微光虫・ラックだった。

ふたりと一匹による大騒ぎの冒険がはじまる。

 

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チカの地下冒険とダイヤモンド王国のひみつ 1話

 

「おかあさんのバカ、だいっきらい!」


 サイテイサイアク。こんな日があっていいのだろうか。
 中学一年生のチカは思いっきりブランコをこいだ。マンションに囲まれた児童公園には数羽のカラスしかいないので制服のスカートがめくれても構わない。

「なによ、ちょっと小テストの点数が悪かっただけであんなに怒るなんて。数学の計算式を忘れちゃっただけなのに」

 この日、チカのクラスでは数日前におこなったテストの答案が返された。三十二点。さすがにちょっとマズいかな、なんて冷や汗かいたけど「おかあさんも昔は数学苦手だって言ってたもんね」と軽い気持ちでキッチンの机の上に置いておいた。そうしたら、仕事から帰ってきたおかあさんがカンカンに怒りだしたのだ。

『おかあさんだってこんなに悪い点とったことはないわよ。勉強もしないで絵ばっかり描いているからよ、反省しなさい!』
『ふんだ、おかあさんの意地悪! こんな家、出てってやる!』

 べぇっと舌を突き出して家を飛び出してきた――までは良かったが、お金も行く当てもなく公園にたどり着き、ブランコをこいでいたのだ。
 ここはチカにとっていなくなったお父さんとの思い出の場所。小さいころによく連れてきてもらった。中学にあがる前にリコンしていまはおかあさんとの二人暮らしだ。
 なんだか毎日が息苦しい。
 すこし前に建ったビルのせいで太陽は見えなくなってしまったけれど神様がまちがって絵具をこぼしてしまったように空が赤いのでもうすぐ日が沈むのだとわかった。
 日が沈んだら夜がくる。家を飛び出してきたチカには帰る場所がない。

 

「はぁ、おなかすいた……」

 ブランコにも飽きてぴょんと飛び降りた。制服のポケットから取り出したのは紫色の箱だ。蓋を開けると銀色の宝石がきらりと光った。
 三月生まれのチカが十二歳になったお祝いに、おかあさんがくれたダイヤモンドのレプリカ――ガラス製の水晶だ。本物は将来お嫁さんになるときにくれるという。

「……きれい」
 ダイヤモンドには小さな穴が空けてあり、金色の鎖が通してある。首から提げると夕陽を反射してチカの胸元できらきらと輝いた。
 ふと、むかし見た両親の結婚式の写真みたいに歩いてみようと思い立った。ふぅ、と息を吐き、脇をしめ、軽く目を閉じる。森の中の白い教会をイメージした。

「ここが教会でしょう、扉が開く。はい音楽スタート。パイプオルガンの『主よ人の望みの喜びよ』がいいな。花嫁のわたしは頭を下げて入場。隣にはおとうさんがいて、ゆっくりバージンロードを進むんだよね。床はガラスばりで、花びらが敷きつめられているの。そこにまっしろなウェディングドレスの裾が広がる。主役はわたし。バージンロードの先には強くて優しいだんな様。目があってお互いに笑っちゃうの。そしておとうさんの手を離れて――」

 何歩か進んだところでぱっと目を開けた。正面には『掘削工事中。ご迷惑をおかけします』の看板。黄色いヘルメットをかぶった男の人がぺこりと頭を下げていたので、スカートの袖をちょんとつまんで会釈する。
 そしたら、ぐぅーとお腹が鳴った。

「ま、そんなものだよね。わたしにはまだまだ先の話」

 けらけらと笑って現実にかえってくる。
 家出したのだから、まずは今夜寝る場所を探さなくてはいけない。学校は休んで、場面によっては働かなくてはいけないかも。はたして中一のチカを雇ってくれる所があるだろうか。
 などと、考えごとをしながらネックレスを外して箱に収めようとしたら、手のひらに当たってつるりと転がり落ちた。

「いけない」

 急いでしゃがみ手を伸ばす。
 ころころころころ。地面に落ちたダイヤモンドはボールのように転がっていく。チカは焦って四つん這いになりながら追いかけた。

「まって、ちょっと、まってってば!……えい!」

 思いきって手を突き出したのが幸いして、ネックレスの鎖を掴んだ。
 「やった」と思ったのも束の間。ぐらりとバランスを崩す。

「ええええーー!!」

 『掘削工事中。ご迷惑をおかけします』の看板をなぎ倒して一回転。二回転。巨大な穴がいただきますとばかりに口を開けて待ち構えていた。

(おーちーるぅうううーー!!)

 チカはおにぎりみたいに転がりながら、まっくらな穴の中に吸い込まれていった。